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最高裁判所第一小法廷 昭和59年(行ツ)318号 判決

上告人 谷英太郎

被上告人 兵庫県知事

代理人 菊池信男 大島崇志 池田直樹 竹田盛之輔 町谷雄次 大田黒昔生 矢野敬一 浅利安弘 ほか五名

主文

被上告人が昭和五七年九月三〇日付けでした八鹿町営土地改良事業の事業施行認可処分の取消請求に関する部分につき、原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。

右部分につき本件を神戸地方裁判所に差し戻す。

上告人のその余の上告を棄却する。

前項に関する上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人大塚明、同神田靖司の上告理由一ないし三について土地改良法は、八七条六項及び七項において、国営又は都道府県営の土地改良事業につき農林水産大臣又は都道府県知事が決定した事業計画についての異議申立てに関する行政不服審査法四五条の期間は当該事業計画書の縦覧期間満了の日の翌日から起算して一五日以内とすること、及び右異議申立てについては右縦覧期間満了後六〇日以内に決定しなければならないことを規定した上、八七条一〇項において、右事業計画に不服がある者は右異議申立てについての決定に対してのみ取消しの訴えを提起することができることを規定している。農林水産大臣又は都道府県知事の行う右事業計画の決定は、当該事業施行地域内の土地につき土地改良事業を施行することを決定するもので、公告すべきものとされていること(土地改良法八七条五項)、右公告があつた後において土地の形質を変更し、工作物の新築、改築若しくは修繕をし、又は物件を附加増置した場合には、これについての損失は、原則として補償しなくてもよいものとされていること(同法一二二条二項)、また、右事業計画が異議申立手続を経て確定したときは、これに基づき工事が着手される運びとなること(同法八七条八項)に照らせば、右事業計画の決定は、行政処分としての性格を有するものということができる。前記の土地改良法八七条六項及び七項は、右事業計画の決定が行政処分として行政不服審査法による異議申立ての対象となるものであることを当然の前提として、異議申立期間等の特則を定めるものであり、同条一〇項も、右事業計画の決定が本来行政処分として取消訴訟の対象となり得るものであることを当然の前提とした上、行政事件訴訟法一〇条二項所定のいわゆる原処分主義の例外として裁決主義を採用する立場から、右事業計画に不服がある者は右異議申立てについての決定に対してのみ取消しの訴えを提起することができるとしたものである。

そして、土地改良事業は、国営又は都道府県営であるか市町村営であるかによって特別その性格を異にするものではないところ、市町村営の土地改良事業において、右に述べた国営又は都道府県営の土地改良事業における事業計画の決定に対応するものは、当該市町村の申請に基づき都道府県知事が行う事業施行の認可である。右事業施行の認可も、当該事業施行地域内の土地につき土地改良事業を施行することを認可するもので、公告すべきものとされ(土地改良法九六条の二第七項)、右公告があつた後における土地の形質の変更等についての損失は原則として補償しなくてもよいものとされており(同法一二二条二項)、右事業施行の認可があつたときは工事が着手される運びとなるのであつて、右の事業計画の決定と事業施行の認可とは、土地改良事業の一連の手続の中で占める位置・役割を同じくするのである。そうすると、右事業施行の認可も、行政処分としての性格を有じ、取消訴訟の対象となるものといわざるを得ず、前記のように、国営又は都道府県営の土地改良事業における事業計画の決定が本来取消訴訟の対象となり得るものであることを当然の前提とした規定を置く土地改良法は、市町村営の土地改良事業における事業施行の認可についても、それが取消訴訟の対象となることを認めているものと解せざるを得ない。

もつとも、土地改良法は、右事業施行の認可について、前記の八七条六項、七項及び一〇項に相当するような規定は設けていない。しかし、これは、土地改良法が、立法政策上、右事業施行の認可の先行手続として行われる認可申請を適当とする旨の都道府県知事の決定につき、利害関係人の異議の申出を認め(九六条の二第五項及び九条一項)、右事業施行の認可については重ねて行政不服審査法による不服申立てをすることができないこととした(九六条の二第五項及び一〇条五項)ため、右事業施行の認可に関する取消訴訟については裁決主義を採用する余地がなくなつたことによるにすぎないのであつて、右事業施行の認可が取消訴訟の対象となることを否定するものではないと解すべきである。

以上のように、市町村営の土地改良事業に関し都道府県知事が行う事業施行の認可は、取消訴訟の対象となるものというべきであるから、八鹿町営土地改良事業に関し被上告人が行つた本件事業施行認可処分が取消訴訟の対象とならないとしてその取消しを求める訴えを却下した第一審判決及びこれを支持した原判決は、いずれも法律の解釈を誤つたものといわざるを得ず、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。第一審判決の引用する当裁判所昭和三七年(オ)第一二二号同四一年二月二三日大法廷判決(民集二〇巻二号二七一頁)は、土地区画整理法に基づく土地区画整理事業計画の決定に関するものであるから、事案を異にし、本件に適切でない。論旨は、右の違法を指摘する点において理由があり、その余の点について判断するまでもなく、原判決及び第一審判決は、本件事業施行認可処分の取消請求に関する部分につき、破棄又は取消しを免れず、右部分につき本件を神戸地方裁判所へ差し戻すべきである。

同四について

土地改良法九六条の二第五項及び九条一項に規定する異議の申出は、市町村営の土地改良事業に関し都道府県知事が事業施行の認可を行う前の段階において、利害関係人に異議を申し出る機会を与え、都道府県知事の監督権の発動を促す途を開いたものであつて、行政事件訴訟法三条三項にいう「審査請求、異議申立てその他の不服申立て」に当たらないから、都道府県知事が土地改良法九六条の二第五項及び九条二項の規定に基づき行う右異議の申出を棄却する旨の決定は、行政事件訴訟法三条三項にいう「裁決」に当たらないことが明らかである。また、右異議申出棄却決定は、利害関係者の法的地位に何ら影響を及ぼすものではないから、行政事件訴訟法三条二項にいう「処分」にも当たらないものというべきである(最高裁昭和五二年(行ツ)第七一号同年一二月二三日第二小法廷判決・裁判集民事一二二号七七九頁参照)。したがつて、右異議申出棄却決定は取消訴訟の対象となり得ないものというべきであり、本件異議申出棄却決定の取消請求に関する部分につき本件訴えを不適法とした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八八条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 谷口正孝 角田禮次郎 高島益郎)

上告理由

一 一、二審判決は『抗告訴訟の対象となる処分は、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によつて直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確立することが法律上認められているもの、すなわち当該行為が個人の法律上の地位ないし権利関係に対し直接に何らかの影響を及ぼすような性質のものであると解すべき』であるという。しかしかかる考え方は『行政目的を可及的速かに達成せしめる必要性と』『これによつて権利、利益を侵害された者の法律上の救済を図ることの必要性とを勘案して』『行政庁の右のような行為は仮りに違法なものであつても、それが正当な権限を有する機関により取り消されるまでは、一応適法性の推定を受け有効として取り扱われるものであることを認め、これによつて権利、利益を侵害された者の救済については、通常の民事訴訟の方法によることなく、特別の規定によるべきこととした』(最判昭和三九年一〇月二九日民集一八・八・一八〇九)ことによるものであつて、問題はある紛争を民事訴訟手続によらせるべきか行政事件手続によらせるべきかの選択の問題に本来他ならない。

右一、二審の考え方は旧来の伝統的発想の上に立つものと一応考えられるが、かかる伝統的処分観は、公定力があらかじめ存在するとの前提に立つて、それを排除するために抗告訴訟を必要とすると考えてきた。すなわち、かつては、国家活動のうち、公権力活動については司法的統制が及ばなかつた。したがつて、公権力活動は違法であつても、司法的統制を受けないから現実に通用していたのである。公定力理論はこうした当時の実定法システムに対応し、抗告訴訟はこのような権利救済の空白領域を消滅せしめるものとして登場してきたのである。従つてむしろ旧来の抗告訴訟理論は出訴を制限するものとしてではなく、逆にこれを拡大するものとして機能していた。

しかし、今日では、公権力活動であれ、行政活動に対しては司法的統制が及び、国民の裁判を受ける権利が保障されている。したがつて、今日では、公定力排除訴訟としての抗告訴訟を考える基盤が消滅しているのである。

『たとえば、公定力ある行為の典型例とみられる農地買収処分や課税処分についても、もし抗告訴訟という制度がなければ民事訴訟でその(無効のみならず)違法を主張できるはずで、ここには、違法であつても取り消されるまで有効といつた効力を認める余地はないのである。さもないと、これらの行政行為に対する司法的救済を拒否することになつて、一切の法律上の紛争について司法救済を認めているはずの現行法のシステム(憲法七六条)に反するであろう。今日、行政行為には違法であつても無効でないとみえる現象があるが、それはこれに対して抗告訴訟による救済を認めた結果、同一行為については民事訴訟は許されないと考える(抗告訴訟の排他的管轄)ために、民事訴訟のレベルでは行政行為は違法であつても取り消されるまでは有効であるかのごとき外観を呈するにすぎないのである。違法な行政行為を取り消されると遡つて効力を失うから、違法な行為が取り消されるまで効力を有する、とはいえない。そうすると、公定力は抗告訴訟の対象とするまえに存在するものではなく、抗告訴訟の対象とした結果発生する現象であるから、抗告訴訟の対象とするかどうかの判断基準にはおよそなりえないものといわなければならない。』(阿部『取消訴訟の対象』現代行政法大系四巻二〇〇頁以下)

してみれば本件訴訟が民事訴訟として不適当とされる以上、これを『行政処分に非ず』として行政訴訟手続から排除することは憲法第三二条に違反するものとして許されないといわざるを得ない。行政訴訟の対象たる『処分性』とは、先に述べたとおり手続間の選択の問題であつて、訴訟手続そのものを拒否することは憲法に定められた裁判を受ける権利に反するものである。

二 行政計画を抗告訴訟の対象たる行政処分に非ずとする論者は計画が事業の基礎的事項について一般的・抽象的に決定するものにすぎずいわば青写真たる性質を有するにすぎない、また計画の公告等に伴う諸種の権利制限は法律が特に付与した附随的効果にとどまり事業計画の決定ないし公告そのものの効果として発生するものでもない、という。しかし

『土地改良事業計画の決定が抗告訴訟の対象となりうるかどうかについては、右事業計画が農業土木に関する技術的裁量によつて一般的・抽象的に決定されるものであつてそれ自体で利害関係者の権利に確定的な変動を与えるものではなく、また事業計画の公告によつて利害関係者に一定の不利益を与えることがあるにしても計画の決定ないしその公告の段階においては未だこれを訴訟事件としてとりあげるだけの事件の成熟性に欠けるものと解されないではないが、土地改良事業計画の公告によつて現実に個人の権利が侵害される限り事業計画そのものを抗告訴訟の対象とする余地も肯認しうるし、事業計画が決定公告されると爾後の手続や工事等がこれにしたがつて機械的に推進されるのが通常と考えられるから、事業計画が違法であつてもこれに対しては常に出訴が許されず後続の処分を持つて始めて抗告訴訟が許されるとすることは、被害者の救済にとつて必ずしも十全とは解し難いなどの諸点を併せ考えると、結局土地改良事業計画の決定そのものが一概に抗告訴訟の対象とはならないと解することは相当ではない。』(札幌高裁昭和四六年一二月二三日判決行裁例集二二巻一一・一二号一〇五五頁)のであり、また

『本件準工業地域指定処分が、都市計画法の委任にもとづき、栃木県知事がした一般処分であることは、被告の主張するとおりである。しかし、一般処分とは言つても、それは、広く一般国民を規制の対象とするものではなく、一定の地域をかぎつて、その地域内の土地利用権を一定の目的のために規制するものにほかならない。しかも、都市計画法にもとづく用途地域の指定処分は、その地域内の土地利用権(所有権・賃借権等)の行使に直接各種の制限を課するだけでなく、その住民にとつては、都市形態の政策的変更にともない、住環境の悪化による生存権(憲法第二五条)の侵害が生ずる場合もありうることは明らかである。したがつて、単に一般処分であるという理由で、これを抗告訴訟の対象からはずすことは、憲法第三二条(裁判を受ける権利)および同第七六条第二項(特別裁判所の禁止)の規定を受け、行政訴訟事項について列記主義を取つていた旧制度を改めて概括主義を採用し、国民に対し広く行政行為に対する司法審査の機会を保障した現行行政事件訴訟法の趣旨にもとることになる。

さらに、被告は、本件指定の結果、生活環境に対する侵害が、現実に、かつ具体的に発生したときはじめて、その侵害の排除を訴求することが許されるのであり、それが司法的救済の限界であると主張する。しかし、もしそうだとすれば、そのような訴の前提問題として本件指定処分の無効(すなわちその重大かつ明白な違法性)の主張がなされねばならないことになるから、そのような訴の成り立つ余地は事実上ほとんど無きにひとしいであろう。そうすると、都市計画法にもとづく用途地域の指定を受けた地域の住民は、かりにその指定の結果どのような権利または法律上の利益の侵害が生じた場合でも、これに対する司法的救済の道は事実上閉ざされ、泣き寝入りを強いられる結果となるであろう。そのような解釈は、憲法三二条の趣旨に照らしとうてい容認できるものではない。

右のいずれの観点から見ても、本件指定処分は、一般処分ではあつても、抗告訴訟の対象となるものと解すべきである。』(宇都宮地裁昭和五〇年一一月一四日判決 判タ三三四号一四〇頁)。

即ち、計画が『一般的』であることは、これが抗告訴訟の対象たり得ないことを示すものでは決してない。『そもそも立法行為か、それとも抗告訴訟の対象となる行為にあたるかの区別の基準は、それが一般的なりや個別的なりやにあるのではない。司法救済の要否の観点からみるかぎり、その行為による権利侵害の可能性が抽象的なりや具体的なりやの区別によつて決するのが相当である。』(南博方『行政手続と行政処分』一七四頁)。

一、二審は『市町村営の土地改良事業は、都道府県知事の土地改良事業の施行許可(本件許可はこれに該当する)により、事業計画において定められた当該事業の概要が確定し、これに基づき、土地の区画形質の変更等の工事が行われ、必要に応じ、一時利用地の指定又は市町村において定め、知事の認可を得た換地計画に基づいて換地処分が行われることとなる。従つて、土地改良事業はこれを全体としてみれば、施行区域内の権利者の権利に重大な変動をもたらすものであるということができる。』と上告人の主張を大筋で認めながら、『右事業計画は、特定の個人に向けられその権利義務に直接影響を及ぼす具体的処分とは異なり、いわば、当該土地改良事業の青写真たる性格を有するにすぎないものと解すべきである。そして、右事業計画について施行認可がされても、これにより事業計画が確定されたにすぎず、前記の青写真たる性格は何ら代わるものではないから、本件認可は、たとえその公告がされた段階においても、抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらないものというべきである。』という。

しかし右判決が本件計画を『青写真たる性格を有するにすぎない』と解する根拠は『土地改良事業の施行の認可は、その対象となる事業計画そのものが、単に施行区域を特定し、これに含まれる土地の地積、当該区域の現況、当該事業の一般計画、換地計画を定めるために必要な基本的事項、事業費の総額等、土地改良事業の基礎的事項を法及び同法施行規則の定めるところに基づき、農業の生産性の向上、農業総生産の増大、農業生産の選択的拡大及び農業構造の改善を目的とする高度の行政的、技術的裁量によつて一般的、抽象的に定めているにすぎない。』というにすぎないのである。しかし右判示の立論にもかかわらず、右摘示の計画内容はまさに具体的なものであつて、一・二審が結論づけるような『青写真』ではない。ちなみに前記一・二審理由中『本件計画が青写真たる性格を有するにすぎない』と解する根拠の部分から『そのもの、単に、一般的抽象的に、すぎない』という主観的な語のみを除いてこれを再度引用してみよう。

『土地改良事業の施行の認可はその対象となる事業計画が、施行区域を特定し、これに含まれる土地の地積、当該区域の現況、当該事業の一般計画、換地計画を定めるために必要な基本的事項、事業費の総額等、土地改良事業の基礎的事項を法及び同法施行規則の定めるところに基づき、農業の生産性の向上、農業総生産の増大、農業生産の選択的拡大及び農業構造の改善を目的とする高度の行政的、技術的裁量によつてに定めているのである。』

即ち、土地改良事業計画は『事業の基礎的事項を』『法及び同法施行規則の定めるところに基づき』『高度の行政的、技術的裁量によつてに定めている』のであつて、単なるマスタープランなどではなく、今後これによつて事業を進めてゆくべき具体的かつ技術的な計画なのである。

以上によればすくなくとも、一、二審判示によるかぎり本件計画の認可はむしろ抗告訴訟の対象となるべき行政処分であるということにならざるを得ない。

三 上告人はさらに本件事業は土地改良法に定める土地改良事業に非ずと主張しているものである。上告人は本件事業計画内に土地を所有する者であり、本件事業により重大な私権の制約をうけること必定である。法所定の事後の各種異議申立手続はすべて正当なる土地改良事業を前提として技術的・個々的に権利調整をはかるものとしてしか規定されていない。土地改良法の適用のないものについて、土地改良法の事後の技術規定の存在をもつて抗するのは失当といわざるを得ない。上告人は本件計画が単なる青写真ではないと主張した。しかし問題はそれ以前に、そもそも本件計画は法の定める『計画』たり得ず、青写真か否かの討論以前の問題なのである。この問題に関する限り、もはや争訟の成熟性を云々する余地なく、事後の救済手段を云々することもあり得ない。現時点でしかこの問題は争い得ないのである。

一・二審自身も『前述したところによれば、市町村営の土地改良事業は、都道府県知事の土地改良事業の施行認可(本件認可はこれに該当する)により、事業計画において定められた当該事業の概要が確定し、これに基づき、土地の区画形質の変更等の工事が行われ、必要に応じ、一時利用地の指定又は市町村において定め、知事の認可を得た換地計画に基づいて換地処分が行われることとなる。従つて、土地改良事業はこれを全体としてみれば、施行区域内の権利者の権利に重大な変動をもたらすものであるということができる。』といわざるを得なかつた、かかる重大な権利変動をもたらす本件事業決定と認可が、計画それ自体として違法なものであつてみれば、現段階での取消請求は当然のものといわなければならない。

四 一・二審は本件認可が行政処分ではないとしたうえで、これを前提として『右認可前の事業計画に至つては当該土地改良事業に関係する土地又はその土地に定着物件の所有者など利害関係人の権利義務に何らの影響も及ぼさないことは明らかである』から『本件棄却決定は、抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらないものである。』と断ずる。しかし、先に述べたとおり一・二審が前提とする本件事業計画およびその認可の処分性に関する判断自体が問題であるほか、この問題をさておくとしても、土地改良法第九条の解釈問題自体から考えても本件棄却決定は少なくとも独立して行政処分性を有しているものというべきである。

土地改良法第九条は、土地改良事業認可申請の適否決定についての都道府県知事に対する異議の申出の手続を定め、これに行政不服審査法の手続を準用している。そして行政不服審査法によれば異議の申出にたいする棄却決定に対しては行政事件訴訟法による抗告訴訟が許されることは明白であり、これを禁ずる規定はどこにも存しない。一・二審はこれを『本来なら行政不服審査法または行政事件訴訟法による不服申立が認められない事項につき、特に設けられたものであり、同条五項が異議にたいする知事の決定につき、行政不服審査法による不服申立をすることができない旨定めているのは、以上の趣旨を法文上明確にしたものであると解すべきである。』という。しかし、『本来なら行政不服審査法または行政事件訴訟法による不服申立が認められない』のはいつたいなぜなのか。土地改良事業計画は、『その施行区域を特定し、これに含まれる土地の地積、当該区域の現況、当該事業の一般計画、換地計画を定めるために必要な基本的事項、事業費の総額等、土地改良事業の基礎的事項を法及び同法施行規則の定めるところに基づき、農業の生産性の向上、農業総生産の増大、農業生産の選択的拡大及び農業構造の改善を目的とする高度の行政的、技術的裁量によつてに定め』るものである。これに対しては特段の事由のないかぎり、行政不服審査法または行政事件訴訟法による不服申立が認められるのが当然である。げんに土地改良法は、土地改良事業認可申請の適否決定についての都道府県知事に対する異議の申出の手続を明文で定めたうえで、かつ、これに対してさらに抗告訴訟の出訴をなすことを明文上何ら禁じていないのである。してみれば何らかの具体的かつ明白な例外事由があるならともかく、また土地改良事業認可申請の適否決定が本来行政処分ではないというならともかく、そうでない以上は行政不服審査法を準用する不服申立に対しては行政事件訴訟法に基づく抗告訴訟が提起できるのは法律上当然であり、原審はこの点につき法令の解釈を誤つたものである。 以上

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